卵巣刺激って怖くない? 痛くない?
– 薬・自己注射・OHSS。知っておきたい卵巣刺激のこと-
「卵巣を薬で刺激するって、体に負担がかかりそう」
「自分で注射するのが怖い」
「卵巣が腫れるって聞いたけれど、大丈夫?」
体外受精を始めると、卵巣刺激について、さまざまな不安を感じる人もいるでしょう。
卵巣刺激は、排卵誘発剤などの薬を使って、複数の卵胞を発育させるための治療です。これには、いくつかの方法があります。
卵巣刺激について正しく知っておくことは、自分にどの方法が合っているのかを選択するためだけでなく、必要以上に不安にならないためにも大切です。
ここでは、自己注射やOHSS、治療中の痛みや体調の変化など、気になることを一つずつ見ていきましょう。
卵巣刺激法とは?
自然な排卵では、通常、1回の月経周期に十数個の卵胞が発育し、その中の1つが成熟して排卵します。
一方、体外受精では、移植できる胚を得るために、1回の月経周期に発育する十数個の卵胞のなるべく多くを育て、成熟した複数の卵子を採卵することを目指します。
そのために、卵胞の発育を助けたり、成熟を促したりするホルモン剤を用いて、複数の卵胞を育てる卵巣刺激を行います。
「そんなにたくさん育てて、卵巣は大丈夫なの?」と不安を感じる人がいるかもしれません。
卵巣刺激法は、ホルモン環境やこれまでの治療歴などから選択され、用いるホルモン剤や量、投与期間などが決められます。また、治療周期中には超音波検査で卵胞の数や大きさを、血液検査でホルモン値を確認しながら、薬の量や投与方法を調整していきます。
卵巣の機能や反応は一人ひとり異なるため、単純に「たくさん育てればいい」というわけではありません。必要な卵子を得ることと、安全に治療を進めることの両方を考えながら、刺激方法を選択します。
自分で注射するのは怖い…
卵巣刺激では、注射薬を自分で投与する「自己注射」を行うことがあります。
「自分で注射なんてできるかな」と不安になる人もいるでしょう。
自己注射には、専用のペン型注射器を使うタイプもあれば、薬剤を溶かして注射器に吸い上げて使うタイプもあります。連日の注射が必要な場合、そのための通院が必要なくなることが、自己注射のメリットの一つです。
自己注射については、「針を刺すのが怖い」というだけでなく、「薬の準備や管理が自分でできるの?」と不安になる人もいるかもしれません。
でも、最初から一人で行うわけではありません。看護師から説明を受け、実際に操作を教えてもらったうえで、確認してから自宅で行います。
なかには、ご主人に注射をしてもらうカップルもいます。
この場合、ご主人もクリニックで正しい手技を教えてもらい、確認してから行うようにしましょう。
注射をする側の怖さ、注射をされる側の怖さ。
お互いが少しずつでも、その怖さを分け合えるのもいいですね。
自己注射方法 よしひろウィメンズクリニック
こちらの動画も参考にしてみてください。

卵巣が腫れる?OHSSとは
卵巣刺激によって複数の卵胞が発育すると、治療中や採卵後に卵巣が一時的に大きくなることがあります。そのなかで注意したいのが、「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」です。
OHSSは、卵巣が強く刺激されることで卵巣が腫れる状態です。
症状が進むと、お腹の張りや痛み、吐き気などがみられ、さらに症状が強くなると、腹水がたまってお腹が苦しくなったり、尿が少なくなったり、息苦しさを感じたりすることがあります。
ただし、卵巣刺激を受けた人すべてにOHSSが起こるわけではありません。
卵巣の反応が強い人や、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群:卵胞がたくさんできやすく、排卵しにくくなる状態)の人、多くの卵胞が発育した人などは、OHSSのリスクが高くなります。
OHSSを防ぐには?
― 卵巣刺激法やトリガーを選択 ―
①卵巣刺激法の選択
OHSSのリスクが高くなる可能性がある場合、OHSSを予防し、なおかつ成熟した卵子を育てる卵巣刺激方法を選択すること大切です。そのために、状態に応じて治療中の薬の量や投与方法を調整します。
卵巣刺激法にはそれぞれ特徴があり、「これが一番良い」と、誰にでも共通して良い方法があるわけではありません。
卵巣の反応やこれまでの治療歴などを踏まえて、その人にとって安全で効果的な方法を選択していきます。
②トリガー(採卵前の薬)の選択
採卵前には「トリガー」となる薬を使って、卵胞を発育させ、採卵するタイミングを決めます。
卵巣が大きくなっている状態でhCGをトリガーとして用いた場合、OHSSを発症するきっかけになったり、症状を悪化させたりすることがあります。
そのため、OHSSのリスクが高い場合には、hCGを使わず、GnRHアゴニスト(点鼻薬など)をトリガーとして使うことで、OHSSの発症リスクを大きく下げられる場合があります。
たとえば、アンタゴニスト法やPPOS法、低刺激法などの早期排卵を抑えるためにGnRHアゴニストを用いない卵巣刺激法の場合は、GnRHアゴニストをトリガーに選択することができます。
一方、ロング法やショート法など、GnRHアゴニストで早期排卵を抑える卵巣刺激法では、一般的にhCGをトリガーとして用います。そのため、OHSSのリスクが高い人では、トリガーだけでなく、どの卵巣刺激法を選ぶかという段階から、OHSSをできるだけ起こさない方法を検討することが大切です。
採卵後、OHSSは治るの?
OHSSは、卵巣への刺激が落ち着くとともに、時間をかけて改善していくことが多く、軽症の場合は経過をみながら自然に回復していきます。
ただし、症状が強い場合には、点滴などの治療や入院による管理が必要になることもあります。 OHSSを避けることは重要ですが、それだけを優先するのではなく、卵胞を適切に成熟させ、移植できる胚を得るために、複数の卵子を確保することを考えながら、治療を進めていきます。
「全胚凍結」とは?胚移植を先送りする選択
採卵後の胚移植についても注意が必要です。妊娠すると体内でhCGがつくられるため、OHSSの症状がさらに悪化することがあります。
そのため、OHSSのリスクが高い、または重症化する可能性がある場合には、採卵した周期には胚移植を行わず、胚をいったん凍結しておく「全胚凍結」が選択されることがあります。
全胚凍結を行えば、OHSSが落ち着いたあとに、改めて胚移植の時期を検討できます。妊娠によるhCGの影響を避け、OHSSの重症化を防ぎ、安全に胚移植を行うための方法の一つです。
もちろん、予防策をとっていてもOHSSが起こることはあります。治療中や採卵後に、お腹の張りや痛みが強くなった、急に体重が増えた、尿が少なくなった、息苦しさがあるなどの症状があれば、我慢せずにクリニックへ連絡しましょう。
卵巣刺激は、卵巣に無理をさせる?
卵巣刺激には、薬を使うことや自己注射、卵巣が腫れる可能性など、不安に感じることがあるでしょう。とくに初めて体外受精を受ける人にとっては、わからないことが不安につながるのも自然なことです。
だからこそ、卵巣刺激がどのような治療なのか、どんな薬を使うのか、自己注射はどのように行うのか、OHSSにはどんな症状があるのかを、あらかじめ知っておくことが大切です。
必要な知識があれば、「よくわからないから怖い」という不安を減らし、治療中の痛みやつらさにも、必要な対処をしながら向き合うことにつながります。
また、注射がどうしても怖い、自己注射に自信がないという場合も、一人で抱え込む必要はありません。医師や看護師に相談してみましょう。
刺激方法によっては、注射の回数を減らしたり、服薬や点鼻薬を組み合わせたりして治療を進められる場合もあります。
もちろん、卵巣刺激は痛みや負担がまったくない治療というわけではありません。注射を打つときの痛みや、卵胞が育つことによるお腹の張りなどを感じることもあります。
卵巣刺激は、卵子を育て、その先の胚移植、妊娠へとつなげるための大切なステップです。
「卵巣刺激って怖そう」と思ったら、まずは知ることから。
わからないことや不安なことは、遠慮せずに医師や看護師に相談しましょう。

卵巣刺激が治療全体のどこに入るかは「当院での体外受精のスケジュールを解説」で、全胚凍結のあとに胚を戻す時期は「凍結胚移植はいつがベスト?」で解説しています。