高度生殖医療
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- 受精卵は、インキュベーター(培養器)の中で培養されています。培養器の中は、酸素や二酸化炭素の濃度を調整し、温度を一定に保つことによって、受精卵にとって居心地が良い環境となるように整えられています。
- 従来の培養器では、受精や発育の状況を確認するために、1日1回培養器から取り出して、顕微鏡下で観察する必要がありました。しかしながら、受精卵にとって居心地の良い培養器から取り出され、異なる環境である空気中に曝されることは大きなストレスとなってしまいます。
- タイムラプスインキュベーターは、カメラと顕微鏡を内蔵した培養器であるため、受精卵を取り出さずに観察を行うことができるようになり、受精卵に与えるストレスを大きく低減できます。その結果、培養成績の向上、妊娠率の向上が認められます。
こだわり抜いた排卵誘発・胚移植法
様々な工夫により、1回の採卵で妊娠した確率は71.4%でした(30-39歳:妊娠=胎嚢確認:2020年~2023年に行った採卵3642周期)
体外受精の成績は採卵・培養・胚移植それぞれのレベルによって大きく影響します。
- 採卵:注射の量、種類、打つタイミングだけでなく、どのタイミングで採卵をしていくかもとても重要になってきます。
当院では院長のこれまでの経験・研究結果から、それぞれの患者様の、それぞれの状況に最適な選択をすることで質のよい卵子をできるだけ多くとっていきます。 - 培養:受精・培養の段階では、培養士の腕・取り扱う培養液などの材料・培養機器(インキュベーター)などが重要になってきます。
当院では最新の培養機器・卵子にやさしい顕微授精(Piezo-ICSI)を取り入れることで培養・妊娠の成績が高くなっています。また培養士、取り扱う材料などの成績を分析・改善し、卵子にとって最高の状況を作るようにしています。 - 胚移植:胚移植は使用するカテーテルの種類なども重要ですが、一番大事なのは移植するやり方です。やり方により5-10%の妊娠率の違いが出ます。
当院では院長のこれまでの経験・研究結果からカテーテルの最適な挿入方法・胚移植方法により高い妊娠率を実現しています。
- 排卵誘発法:自然周期か刺激周期か、内服・注射薬の種類、注射の頻度、採卵するタイミング・・など ≫ 概説はこちら
- 胚移植法:移植するカテーテルの種類、移植する胚の子宮内での位置、胚移植の注入スピード・・など
- 年齢、ホルモン値、卵巣機能、今までの治療結果などをもとに、以下の誘発方法の中から患者さんにとってベストなものを選択します。
- 基本的には注射による刺激をしていきます。というのも、注射の刺激により複数個とれれば、自然周期法の1個に比べて効率性が何倍もアップするからです。
- 注射刺激の量は多ければいいというものではありません。量を増やしても卵が育たない場合もありますし、逆に量を増やしすぎることによって卵巣が腫れてしまう合併症を引き起こすこともあります。
当院は患者さんの安全と安心を考えます
患者さんの安全を第一に考えて医療を行います。
体外受精では、一定の確率で合併症がおこるとされています。(出血、感染、子宮外妊娠・・など)≫ 詳細はこちら
医師の努力によりその確率はより低いものにできるため、日々意識、努力し、より患者さんにとって安全な医療を心がけております。
- 出血:採卵時に稀(1000人に1人と言われています)に腹腔内に大量出血することがあり、手術が必要になることもあります。
そのため採卵後は院内で安静にしていただき、安静終了後帰宅となります。これらの合併症が重症の場合には入院加療が必要となります。
以前と異なり採卵に用いる針も細い針を用いるようにしてこのような合併症のリスクを抑えるようにしています。 - 感染:採卵した卵巣に菌が繁殖し感染することがあります。感染予防を徹底し抗生剤の予防投与をおこないますが、頻度としては稀ですが感染が起こってしまうことがあります。
開腹手術や卵巣摘出をしなければならないこともあります。卵巣嚢腫がある方は感染のリスクが数倍高くなるといわれています。 - 卵巣過剰刺激症候群(OHSS): 排卵誘発剤の使用により発生する合併症で、卵巣が腫れたり、腹水が貯留したりします。
症状としては、腹痛や腹部膨満感、息苦しさ、尿の出が悪くなるなどがあげられます。採卵後1週間頃が症状のピークとなります。
なお重症化した場合には入院しての点滴治療が必要となることもあります。全胚凍結、薬の予防投与をすることによりOHSSの重症化を軽減することができます。 - 子宮外妊娠:子宮内に胚を移植していても、自然妊娠と同様に子宮外妊娠を起こすことがあります(約1%弱)。
反復不成功でも妊娠を目指せる各種対策
数回の胚移植でうまくいかなくても、その方に合ったさらなる対策を行うことで高い妊娠率を維持できます。
子宮内に着床を妨げるような因子があると、受精卵に問題がなくても妊娠が阻害される可能性があります。その因子が何なのかはまだ特定されていないため、検査で調べることはできません。
そこで、子宮鏡という細いカメラを子宮内に挿入して子宮内を観察しながら洗浄します。それによって着床を妨げる因子を洗い流そうというものです。
胚移植反復不成功の人の1~2割に効果があると言われています。しかも一度洗浄すると効果が数回持続します。
※処置後に少量の出血が出る場合があります。
受精卵が着床する部位の子宮内膜をこすり小さな傷をつけます。内膜が修復する過程で着床により適した状態になるといわれています。
通常は子宮鏡下子宮内洗浄の処置の際に一緒に行います。
※処置後に少量の出血が出る場合があります。
着床という現象は受精卵と子宮内膜が相互に作用し合って進んでいきます。受精卵側から様々なサイトカインが放出されますが、このサイトカインのうちのいくつかが着床に重要な役割を果たしていると考えられています。
受精卵を培養した時の培養液の中には、着床に必要な様々なサイトカインが含まれています。そこで、この培養液を事前に凍結保存しておき、胚移植する数日前に子宮内に注入します。これによって受精卵が着床しやすくなることがあります。
※処置後に少量の出血が出る場合がまれにあります。
慢性子宮内膜炎とは子宮内膜の慢性的に持続する炎症です。子宮内膜の組織を少量採取して、CD138免疫組織染色によって診断します。
子宮内に炎症があると着床が妨げられる可能性があり、抗生剤によって治療します。
※生理痛のような軽度の痛みや少量の出血が出る場合があります。
子宮内膜が胚を受け入れる時期(着床の窓)は人それぞれ決まっており、その時期が胚移植の時期とずれている場合には着床がうまくいかないことがあります。そのため、適切な時期を調べて、その人に合った胚移植を行っていきます。
子宮内膜の組織を採取して約200個のRNAの発現をNGS(次世代シークエンサー)によって解析します。
*生理痛のような軽度の痛みや少量の出血が出る場合があります。
1回の胚移植あたりの妊娠率を高めています
<当院4年間の成績>
胚移植1回あたりの妊娠率
60.0%(30~39歳)
最適な排卵誘発・採卵法による質のよい卵子、タイムラプスインキュベーターの導入、最適な胚移植法の研究により、過去の成績(グラフ)よりもさらに高い妊娠率となっています。